4時ごろにヴァイスホルンヒュッテの主人に起こされてすぐに起床して朝食をとる。パンとジャム・バターとお茶などの簡単な食事だが貴重なエネルギー源で長時間の厳しい登山が予想されるので意地汚くおかわりをして食べまくる。TADAは荷物の準備などの手際が悪いほうなので、出発が遅れることを警戒して昨夜のうちに徹底的に準備しておいたので朝食を終えて出発準備を完了したのは早いほうだった。
だが、ガイドがぜんぜんあわてずゆっくり準備している。登山者はどんどん出発していくがあせっても仕方ないのでバナナでさらにエネルギーを補充しておいた。結局、ほとんど最後のほうで出発することになった。
4時27分に出発し、真っ暗な中をヘッドランプを頼りに氷河のモレーンと思われるところを登っていく。前方には先に出発した登山者たちのヘッドランプが点々と続いている。途中で氷河に少し入ってから簡単な岩場を登りだす。ガイドはさすがだが、ガイド登山でない登山者たちは暗くてルートが良く分らないのか、迷っている人もいたようだ。
うす暗い中、ガイドが確保してくれた岩場を必死で登る。
しばらく登ると稜線に出た。ようやく明るくなってきて、時間は6時近くになった。稜線上(たぶん朝食場と呼ばれているところ)で休息をとる。雲海の上である。ベルナーオーバーラント方面の光景。
隣の山々はまだ暗い。
一番左がマッターホルンで中央がオーバーガーベルホルン、右がツィナールロートホルン、重なってその奥にあるのがダンブランシュである。
朝食場と呼ばれるにふさわしい、日の出を見るには絶好のポイントであった。
まだヴァイスホルンに光は当たっていない。
マッターホルンはツェルマットから見た光景ともチェルヴィニア(イタリア側)から見たのとも違う角度でうれしい。
モンテローザはそんなに変わった形をしていない。
日が昇るにつれて下界の雲は減ってきた。今朝は快晴である。
だんだんヴァイスホルンが赤く染まりだした。
マッターホルンも赤くなってきた。
白いヴァイスホルンや周りの山々が赤くなりすばらしい眺めであった。カメラと腕がいまいちのためあまり再現できずに残念である。
6時15分くらいには赤みも消えてしまった。
ツィナールロートホルンはツェルマットから見ているとさほど格好よく思えなかったが、ヴァイスホルン側から見ると氷河の上に険しくそそり立ち、評価が変わった。
ブライトホルンはまだ赤いが、そろそろ出発である。後になって思えば登山ガイドのトーマスは20分以上も休憩させてくれて、日の出を楽しませてくれ、いい思い出になった。マッターホルンでは考えられないことである。やはりマッターホルンに比べて空いており、それなりのスピードで登れたからであろう。
朝の光の中を稜線上をひたすら岩を越えて進んで行く。
周りは絶景で体調も悪くなく、楽しい。
稜線上の岩を右に左に巻きながら1時間ほど進むと岩稜は終わり、頂上に続くと思われる雪稜に出た。7時20分ごろここで再度休憩する。どうやら引き返させられないし、それほど急かされていないのでこのまま登れるらしい。天候も良いのでこの後急にへばらなければ登頂できそうなのでうれしい。ガイドに「TOPまであと3時間くらいか」とたずねたら「そんなにはかからない1時間少しでつく」との返答であった。
この時点でたぬが3日前に引き返させられたという説明がおかしいと思うが実際に登れるまではわからないので考えないようにした。
朝の光を浴びているヴァリス山群を一望できる。マッターホルンはやはりひときわ目立っている。
イタリア国境のモンテローザ、カストゥール、ポルックス、ブライトホルンを遠望する。
スイス国内最高峰のドムとターシュホルンなど、ツェルマット付近からでは見えにくい山々も迫力ある姿である。
北を見るとローヌの谷の向こうにベルナーオーバーラントの山々が見える。手前の山はビスホルン。
ビス氷河の上にそびえるブルネックホルン
ドムとターシュホルン
最後の雪稜を登り始めたが急な上に硬い氷のアイスバーンになっており、思っていたよりもはるかに大変だった。風もかなり強く、滑落した場合はどこまで落ちるかわからない。ガイドに導かれたおかげでこの日の登山者でTADAたちより前にいるのはほんの数人であったが、話し合った結果、TADAのガイドが先頭にたってピッケルを使って氷を砕いて足場をつくり登っていくことになった。
景色はよく、ルート工作まちのあいだは手すきであったが、ガイドに危険だから登山に集中してアイゼンのつめをたてているようにいわれ、確かに滑ると命取りの場所であり、足場も悪く残念ながら撮影する余裕はなかった。
いくつかのクレバスをなんとかクリアして、思っていたよりはるかに時間がかかってしまったが、9時17分に頂上にたつことができた。頂上からはマッターホルンをはじめとするヴァリスの高峰が一望にできた。特にマッターホルンやツィナールロートホルンはツェルマットからみるのとは大きく異なる形をしており、ツィナールロートホルンの牙のような山容は印象的であった。
さすがに4500メートルを越えているのでとても高度感があり、周りの4000メートル峰を見下ろしている感じがする。ちなみにスイスアルプスでヴァイスホルンより高いのは、モンテローザとドム、リスカムだけである。ヨーロッパ全体でもこれにモンブランが加わるのみで第5位になる。
マッターホルン。左側のヘルンリ稜がよくみえる。
モンテローザは高度が高いところから見ているためか少し迫力がない。
登ってきたヴァイスホルン東稜と奥はベルナーオーバーランド方面
左側が私の登山ガイドをしてくれたトーマス。ちなみにトーマスという名前は多いようでたぬの2回のプライベートガイドもトーマス。延べ3人だがすべて別人である。
この切り立った山頂を持つ山は、ツィナールロートホルン。山岳ガイドからはいい山だと教えてもらい、本にもそう書いてあったが、いまひとつ登る気がしなかった。南から見るとすごく切り立っていて険しく面白そうな山とわかったので機会があれば登りたくなった。
これはダン・デラン(たぶん)
リスカムとグレンツ氷河
山岳ガイドも眺望を楽しんでいる。「アルプス中でもっとも美しい山」と讃えられるだけのことはある。
登ってきて、そしてこれから下りて行くヴァイスホルン東稜
ツェルマットから見るとそびえたっているメッテルホルンもはるか下にあり目立たない。
ドムとターシュホルンとはほぼ同じ高さであり、マッター谷を挟んで全容を眺められる。
頂上直下の岩場で休憩する。
谷底にランダの村を見つけた。遠い。
カストゥール(左)とポルックス(右)も見えている。20分強の間、頂上でパノラマを楽しんでから下山にかかった。
下山についてはとにかく大変だった。頂上付近の雪稜は強い日光でゆるみはじめており、登っているときとは逆に滑落しやすくなっていて危険だった。雪稜を下りて岩稜になってからも結構手間取り、体力もつきてきてしまった。写真を撮る余裕もなく、懸垂下降も何度か使いながら、ほとんど休むこともなく下り続けたのだが一向にヒュッテも見えてこない。ガイドもTADAに期待していたよりスピードが遅くもう一組のガイド登山のパーティにも追い抜かされてしまったせいかいらいらしてあたりがきつくなっていた。そうは言っても身体や足が疲れてしまって言うことをきかない。無理なものは無理とはっきり言って開き直った。
午後になり、天候も悪化してドムなども見えなくなってきた。
14時くらいにようやく頂上から4時間以上かけて、氷河にたどりついた。氷河は結構滑って時間を短縮した。
ヴァイスホルンの山頂はずいぶん遠くなってしまった。さみしい。
すでに足腰ぼろぼろである。こんななんでもないくだりも踏ん張りが利かない。
左がツィナールロートホルン、右がシャーリーホルン。ずいぶん形がかわってきた。
天候はまた少しよくなった。でも早くヴァイスホルンヒュッテに着きたい。
ついに小屋が見えた!
14時40分にヴァイスホルンヒュッテにたどりついたがぼろぼろであった。ガイドとスープを飲んで、デザートのお茶をしてからお別れする。ガイドはどうも明日もヴァイスホルンで仕事をするようだった。
15時45分にヒュッテを出発してランダへ向かって下り出した。ヴァイスホルンをじっくり眺めてヒュッテに別れをつげてから出発する。推定所要時間は2時間30分である。電車は毎時45分なので18時45分の電車にはなんとかのってツェルマットへ帰りたい。
1時間休んだせいか、それまで比べると格段に楽なルートのためか自分としてはすごいスピードでかけ下る。ドムやターシュホルンをみながら下るのを楽しみにしていたが、残念ながら雲に隠れてしまっている。
でもランダはなかなか近づかない。途中で2度ほど座り込んで休憩せざるを得なくなり、結局2時間20分もかかってしまった。
さようならヴァイスホルンヒュッテ。いい小屋でした。もしかしたらもう来ることはないかも。
急げー。
山岳の迫力と人の少なさと言う点では魅力的なハイキングコースでもある。でももうハイキングには遅いので人はいない。
羊たちもおうちに入っている。
さよなら
16時39分。なかなか近づかない。
MGBの電車が駅に止まっている。早く乗りたい。
17時35分。大分近づいたがまだかなりある。
ついに土砂採石場まで下りてきた。あと少し。
ランダの教会を見ながら、駅に向かう。
>振り返ったが、雲が厚くなっており、氷河はもう見えない。
18時5分にランダ駅について、ザックを放り出して座り込む。今回のTADAの登山は終わった。
ヴァイスホルンについての感想としては
1、ランダからヴァイスホルンヒュッテまでのアプローチがきつくて長い。でも自分の足であがる充実感もあり、モンテローザヒュッテのように下って登るよりは精神衛生上よかった。
2、山自体はそれほど難しいわけではないが、長時間の行動になり、注意深く行動しなければいけない所も多いため体力や集中力を保つのがきつかった。
3、山頂からの景色は晴れていればすばらしい。とても美しい山であった。一眼レフをもっていけばよかった。
である。電車でツェルマットに戻り、家族と再会する。たぬに岩稜から頂上への所要時間の話をして、再挑戦を強く促した。あきらめていたたぬも迷いだしている
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